環境・労働安全衛生(EHS)は、企業の持続的成長を支える重要な要素です。多くの企業が環境マネジメントシステムに関するISO14000規格に基づく、あるいは企業の環境方針に基づく環境監査を実施しています。中国やタイ、東南アジアのその他新興国でも環境法令がますます強化されてきており、環境法令違反は事業の停止や罰金といったペナルティに直結することから、現地環境法令の最新状況の把握および順守徹底は重要な経営課題となっています。

 

タイにおける環境問題

東南アジアにおける工業先進国であるタイでは、経済成長とともに、様々な環境汚染問題が噴出してきています。工業団地からの排出や自動車の排ガスなどにより、工業団地の周辺地域や大都市では大気汚染が進行しており、またチャオプラヤ川をはじめとする河川や都市部の水路では、水質汚濁が進行しています。さらに、増大する廃棄物(一般ごみや有害廃棄物、廃電気電子機器など)の管理騒音による公害問題なども、重要な課題となっています。最近では、市民の環境意識も高まりをみせており、ラヨーン県マプタプット(Map Ta Phut)工業団地の周辺住民が、工場から排出される有害化学物質により甚大な健康被害を受けているとして訴訟を提起した公害問題は記憶に新しいところです。本事案では、中央行政裁判所が、2009年9月、総額でおよそ100億ドル(約1兆円)にのぼる76件のプロジェクトに中断を命じました。日本貿易振興機構(JETRO)らが実施した調査によると、タイに進出している日系企業の3分の1の企業が、プロジェクト中断の影響を受けたといいます。2010年後半には多くのプロジェクトについて再開が認められたものの、このマプタプット公害問題によって、タイにおける環境管理の重要性やリスクが改めて浮き彫りになりました。

 

タイの環境法規制の枠組み

タイの代表的な環境法として、以下の法律があります。

法律名称 概要
国家環境保全推進法(1992) 1975年国家環境保全推進法に代わるものとして1992年に制定された環境基本法。タイで唯一の環境保護に特化した法律であり、水質汚染や大気汚染、廃棄物管理、騒音、振動などの公害対策について規定。所管官庁は、天然資源環境省。
工場法(1992) 1969年工場法に代わるものとして1992年に制定。工場の安全確保および環境の保護がその主要な目的。所管官庁は、工業省。
有害物質法(1992) 1967年毒物法に代わるものとして1992年に制定。タイにおける有害化学物質管理の法的基盤を構築する法律であり、有害物質の製造・輸入・輸出・保有を規制。中心となる所管官庁は、工業省。
公衆衛生法(1992) 1941年公衆衛生法に代わるものとして1992年に制定。暮らしの衛生や環境の健全性、衛生的な環境に関連して、国民を保護することを目的とする。所管官庁は、公衆衛生省。
労働安全衛生環境法(2011) 2011年年に公布された比較的新しい法律。労働安全・衛生・環境に対する危険をなくすことを目的とする。所管官庁は、労働省。
省エネルギー促進法(1992) 工場や建物、機器装置の省エネ等を規制する省エネ分野の基本法である。中心的な所管官庁は、エネルギー省。

上記の法律のもと、その詳細を定める数多くの下位法令が制定されています。また、上記以外にも、地下水法(1977)、タイ工業団地公社法(1979)、タイ国水域航行法(1913) といった国レベルの法律や地方条例などが制定されています。

 

タイで報じられた環境法令違反事例

近年にタイで報じられた環境法令違反に関する事例として、次のものがあります。

  1. 工場排水によるエイの大量死
    2016年9月~10月にかけて、サムット・ソンクラーム県のメークロン川で約50匹の大型淡水エイが大量死。調査の結果、ラチャブリ県のエタノール工場が原因と特定され、工業省工業事業局(DIW)は、基準を超過した工場排水を排出したかどで、同工場を訴追。
  2. 繊維工場からの排水問題
    テレビ局のニュースクルーが、サムットプラカン県の工場からの排水とする映像をFacebookに投稿。当局が周囲の工場を一斉に検査し、排水源を特定。結果として、排水は基準を満たしており違法ではなかったが、タイの排水基準が“色”について明確な測定単位を示していなかったため、改正により色の基準を定めるきっかけに。
  3. ラヨーン県の原油流出事故
    タンカーに接続されていたパイプから5万リットルの原油がラヨーン県沖の海洋に流出。パイプの所有者PTT Global Chemical社は国家環境保全推進法およびタイ国水域航行法違反により漁業者らに賠償金約10億バーツ(約36億5000万円)を支払うとともに、環境モニタリングおよびサンプリングのための経費を負担。
  4. めっき工場からの化学物質漏出事故
    アマタナコン工業団地(チョンブリ県)に入居するめっき工場から、有害化学物質が漏出。タイ工業団地公社は 、損害の調査及び安全基準を満たす製造システムの改善、修理、保守のために、30日の操業停止を命令。
  5. 廃水処理設備へのインターン生および作業員の転落事故
    バンコクの肉加工工場内にある廃水処理システム槽に学生と作業員が転落。処理槽では酸素欠乏に陥る危険があるにも関わらず、その知識を持たないまま下へ降りて行った結果、5名が犠牲に。

タイでは、環境や安全に関する市民の意識が高まっており、これらの情報は新聞やテレビ、ソーシャルメディア等を通じて拡散するため、法令違反は事業継続の大きなリスク要因となっています。企業および工場は、適切な環境管理システムを構築し、法令順守に努める必要があります。

 

エンヴィックス・アジアのサービス

エンヴィックス・アジア社は、海外環境法規制対応コンサルティングを得意とするエンヴィックス有限会社と協力し、海外に工場を有する日系製造業の環境管理を支援しています。現地の環境法令の要求事項をまとめたチェックリストの作成や現場での監査サポートなど、お客様のご要望に合わせてご提案いたします。

タイにおける環境監査(EHS監査:Environment, Health, Safety Audit)

近年、タイにおいてもますます多くの企業、工場が環境監査を実施しています。しかしながら、言語や人材等の問題から、日系企業の日本人担当者がタイの環境法令を把握し、その適合性を評価することは容易ではありません。エンヴィックス・アジアは、タイの環境法規制に精通した日本人およびタイ人のコンサルタントがタイの現地法令に照らして、企業、工場の環境監査をサポートいたします(問い合わせ先)。

  • そもそもタイの環境法令がわからず、現地スタッフがしっかりと規制対応を行っているのか評価できない。
  • 書類がタイ語で、何が書いてあるのかわからない。
  • 現地スタッフにヒアリングしても、会話がかみ合わず、言われたままを鵜呑みにするしかない。

など、タイ拠点の環境監査にお困りの方は、ご相談ください。弊社サービスの特徴は以下の通りです。

  • 適用されるタイの環境法規制、地方条例の特定および順守状況の評価
  • タイ人コンサルタントによるタイ語で記された届出・許認可等の関連書類の確認
  • 日本語/英語/タイ語での報告書作成

タイ周辺のASEAN諸国においても同様のサービスを展開しておりますので、ご関心のある方はお問合せください。

 

環境・労働安全衛生分野における法的要求事項チェックリスト(タイおよびその他の国々)

把握が難しい現地の環境法令の要求事項をまとめたチェックリストを作成いたします。本サービスの特徴は以下の通りです。

  • お客様の操業国や業種、関心分野(水、大気、土壌、騒音、振動、悪臭、廃棄物管理、化学物質管理、省エネ、労働安全衛生など)に合わせたテーラーメイドのチェックリスト
  • 日本語、英語、現地語など、操業国に合わせた多言語チェックリスト

 

(例)タイにおける環境・労働安全衛生法的要求事項チェックリスト(日・英・タイの3言語版)

 

タイ環境法規制データベース

弊社の親会社エンヴィックスでは、タイにおける工場の環境管理を向上させるためのツールとして、“タイ環境法規制データベース”を開発、提供しております。本サービスは、工場の環境管理およびISO14001 EMSの観点から把握しておくべきタイの環境法規を収載したウェブデータベースです。各種環境管理制度(公害防止管理者制度、汚染物質の排出報告制度など含む)に加え、化学物質管理、廃棄物管理、省エネ、水、大気、土壌、悪臭・騒音・振動、労働安全衛生などの分野別の規制体系および関連制度を分かりやすく解説しております。

本サービスの特徴

  • 環境に関する各種制度と関連する環境法規制を図表とともに分かりやすく解説。最新の環境規制情報・ニュースも毎月更新!
  • 120件を超える環境法規の原文を収載し、適宜、日本語版や英語版を追加更新。原文にすぐにアクセスできるので、現地タイ人担当者とのコミュニケーションにも便利。
  • 法的要求事項を条文別にまとめた監査用チェックリスト(Excel)付き(裏面にサンプルを掲載)。本社が現地の環境法令を理解することで、海外拠点の環境管理レベルを飛躍的にアップ!監査にもすぐに利用可能

本サービスの詳細は、http://www.envix.co.jp/law/thai/ をご参照ください。